二人の弟子、故郷に戻る
今日の聖書箇所は、二人の弟子がエルサレムを出発して、そこから11kmほど離れたエマオという村を目指して、歩いているところから始まります。
おそらく二人は、故郷であるエマオに向かっているところだったのでしょう。
二人は歩きながら「この一切の出来事」（14節）について話し合っていました。
二人が話していたのは、ここ数日の間、エルサレムで起こったこと、すなわち、キリストに起こった出来事についてでした。
1週間前、キリストは熱狂の渦の中、エルサレムに迎え入れられました。
人々は「ホサナ、ホサナ」と神様を賛美しながら、ロバに乗ったキリストを歓迎しました。
みんなが「このイエスという方こそ、イスラエルをローマの支配から解放してくれるメシア」だと信じていました。
しかし、その後、キリストは逮捕され、死刑判決だくだされ、最終的に十字架で殺されてしまいました。
ところが、不思議なことに、キリストの遺体が葬られた後、3日目に、そこから遺体が取り去れられていました。
これがここ数日の間、キリストに起こった出来事であり、二人の弟子が話していたことです。
この時、いわゆるキリストの十二弟子はエルサレムに残っていましたが、二人の弟子はエルサレムを離れて、地元に戻ろうとしていました。
それは、二人にはもうエルサレムに留まる理由がなくなったからであり、つまり、二人にとって、殺されたキリストの弟子であり続ける理由はもうなくなったということです。
過去の人、キリスト
この時、二人の弟子にとって、キリストというのはどういう存在だったでしょうか？
二人がキリストのことを話し合いながら歩いていると、そこにキリストが現れて、二人と一緒に歩き始めました。
ただ、この時はまだ二人はその人がキリストだとは気づかなかったようです。
話の中で二人のうちの一人、クレオパという弟子はキリストについて「神と民全体の前で、行いにも言葉にも力のある預言者でした」と言っています。
二人の弟子にとって、キリストは行いにも言葉にも力ある預言者でした。
二人の中では、キリストが殺された後も、キリストに対する評価は変わっていませんでした。
しかし、二人は歩きながら「暗い顔」をしていました。
なぜでしょうか？
21節を見ると、それがわかります。
「わたしたちは、あの方こそイスラエルを解放してくださると望みをかけていました。」
二人はキリストこそ、イスラエルを解放してくれるメシアだと信じていました。
キリストは、ローマという敵国の支配からユダヤを救ってくれる希望でした。
しかし、キリストはローマによって裁かれ、殺されてしまい、それと同時にイスラエルの解放という希望も失われてしまいました。
二人の中で、キリストに対する評価は変わっていませんでした。
キリストの行いや言葉は深く心に刻まれていますし、この後もずっと、キリストを力ある預言者だと言い続けることでしょう。
しかし、そのことは希望にはつながりませんでした。
二人はキリストに大きな影響を受けましたが、今はもう自分たちとはほとんど関係のない人になってしまいました。
つまり、二人の弟子にとってキリストはもう「過去の人」になったということです。
目が開けると…
二人の話を聞いたキリストは、その後、聖書全体にわたり、メシアについて書かれていることを説明されました。
二人の弟子とキリストはエマオに到着しましたが、キリストはエマオを通り過ぎて先に行こうとされました。
そうすると二人は、家に泊まって行くように無理に引き止めました。
家に入り、三人が一緒に食事の席に着くと、キリストはパンを取り、賛美の祈りを唱え、パンを裂いて、二人にお渡しになりました。
その時、二人の目が開け、それがキリストだとわかりました。
しかし、その時にはもう、キリストの姿は見えなくなっていました。
二人は、キリストが逮捕される前、いわゆる最後の晩餐の場面を思い出し、その人がキリストだと気づきました。
ルカはこのことを「目が開けた」と表現しています。
二人が気づいたことは、単にその人がキリストだったということだけではありません。
二人は、キリストがこれまで自分たちと一緒に歩んでくださった方であることに気づきました。
そして、これからもまた、キリストが共に歩んでくださるということも。
この場面を見ながら、クリスチャンとして生きるとはどういうことなのかを考えることができると思います。
クリスチャンとは単に2000年前のキリストの言葉を実践して生きる人のことでも、キリストの行いを模範にして生きる人のことでもありません。
そのようにキリストを「過去の人」として認識するのではなく、「今の人」であるキリストと共に生きるのが、クリスチャンです。
つまり、クリスチャンとは復活したキリストと今を共に生きている人のことです。
キリストを過去の人としてではなく、今の人として、私たちの現実に迎え入れて、キリストと共に生きて行くことが、クリスチャンとしての歩みなのです。
皆さんの中で、キリストは過去の人でしょうか？ それとも今の人でしょうか？
