ガリラヤに導かれた弟子たち
今日分かち合うのは、イエスが復活した後、3度目に弟子たちの前に現れた場面です。
1度目は、イエスが復活した日曜日の夕方のことでした。
弟子たちはユダヤ人を恐れて、家の扉に鍵をかけて隠れていましたが、そこにイエスが現れました。
2度目は、それから一週間後の日曜日のことです。
この時もまだ、弟子たちは鍵をかけて家の中に隠れていましたが、そこにイエスが現れました。
そして、3度目が、弟子たちがガリラヤ湖で漁をしていた時のことでした。
このように、イエスは復活後に、何度も弟子たちのもとを訪ねて行かれました。
もし、死からよみがえったということだけを証明したいのであれば、そんなに何度も姿を現す必要はなかったでしょう。
せいぜい1度か2度、生きている姿を見せれば、弟子たちはイエスが復活したことを十分に受け入れることができたと思います。
しかし、イエスが、3度目に弟子たちの前に現れたということは、また別の目的があったのだと考えられます。
イエスが弟子たちの前に3度目に現れた場所は、ティベリアス湖畔というところでした。
このティベリアス湖畔というのは、ガリラヤ湖のことで、もともと、十二弟子の何人かが、漁師として働いていた場所でした。
1度目と2度目にイエスが現れたのは、エルサレムでした。
エルサレムは、イエス様が十字架にかけられ、殺されたところです。
このエルサレムで、弟子たちは、どこかの家に隠れている時に、2度、復活したイエスに出会いました。
その後、弟子たちは、エルサレムから離れたガリラヤ地方に移動したようです。
そこで、イエスと3度目の再会を果たすことになります。
今日の場面でガリラヤにいたのは、2節を見ると、弟子たちのうち7人だけでした。
シモン・ペトロ、トマス、ナタナエル、ゼベダイの子たち、これはヤコブとヨハネのことで、それ以外に二人の弟子がいました。
ただ、マタイによる福音書の28章を見ると、11人（おそらくユダ以外の）はガリラヤに一緒にいたことが書かれていますので、ガリラヤにはみんなでやってきていたのでしょう。
弟子たちがガリラヤに来ていたのには、理由がありました。
イエスは復活した後、婦人たちを通して、弟子たちにガリラヤに行くように言っていました。
弟子たちは「ガリラヤで私に会うことになる」というイエスの言葉によって、みんなでエルサレムからガリラヤに移動したのです。
今、置かれている環境の中に
その日、弟子たちのうち、7人が漁に出かけました。
しかし、一晩中、漁をしたものの何の収穫もありませんでした。
そこに、復活したイエスが現れました。
夜が明けた頃、岸にはイエスが立っておられましたが、弟子たちは誰も、それがイエスであることに気づきませんでした。
「イエスがいたけどわからなかった」という話が、ヨハネによる福音書の20章にも書かれています。
イエスの弟子のマリアという女性が、イエスの墓を訪れた時のことです。
マリアは、イエスの遺体が納められているはずの墓が空になっているのを見て、イエスが誰かに取り去られてしまったと思い、泣いていました。
はじめ、マリアはその人のことをお墓の管理人さんだと勘違いして、それがイエスだとはわかりませんでしたが、実は、マリアのすぐ近くイエスはおられました。
マリアが、その人がイエスであることに気付いたのは「マリア」と呼びかけるイエスの声を聞いた時でした。
イエスの遺体が奪い去られたと、マリアが泣き悲しんでいる時、実は、マリアのすぐそばにイエスはおられたのです。
今日の場面は、その時と少し似たような状況にあります。
弟子たちが一晩中、夜通し漁をしても何の収穫もありませんでした。
疲れ果てて、みんな心が沈んでいた時、岸にはイエスがおられました。
マリアと弟子たちに起こった二つの出来事が意味していることは何か？
それは、たとえ、私たちがイエスの姿を見られなかったとしても、イエス様の存在を感じることができなかったとしても、イエスは私たちのすぐそばにおられるということです。
マリアが、イエスがいなくなって涙を流していた時、すぐそばにイエスは立っておられました。
弟子たちが、何の収穫も得られず、意気消沈していた時、イエスは、岸から弟子たちのことを見守っておられました。
物事がうまくいっている中だけに、イエスがいるわけではありません。
私たちは何か良いことが起こった時、祝福とか恵みという言葉で説明することがあります。
物事がうまくいっていると神様から祝福されていると感じ、神様の恵みですと、神様に感謝します。
ただ、私たちの神様は、繁栄や成功の中にだけいる神様ではありません。
何か失敗や過ちを犯した時、私たちは「自分は祝福されていない」とか「神様に見放されている」と感じることがあるかもしれません。
ただ、本当の祝福と恵みは、どんな時も変わらずに神様が共におられることだと思います。
良い時も悪い時も、何があってもそこに共にいてくださる神様が、私たちの神様。
慣れ親しんだ日常の中に
このことから、信仰ということについて、一つ言えるのは、信仰というのは、今、自分が置かれている環境に、共にいてくださる神様を信じることです。
神様は、良い時も悪い時も、私たちが神様の存在を感じられないような時も、私たちといつも共にいてくださるお方です。
これは別の言い方をすれば、神様は私たちの日常の中におられるお方です。
私たちの信仰生活は、日常生活です。
そもそも、なぜイエス様は弟子たちにガリラヤに行くように伝えたのでしょうか？
ガリラヤというのは、多くの弟子たちにとって、自分たちがもともと生活していたところ、地元です。
弟子のうち7人は、ガリラヤ湖で漁をしていたが、これも昔、毎日のようにやっていたことです。
弟子たちにとって、イエスに従って歩んだ3年半というのは、非日常の毎日だったと思います。
悪霊を追い出したり、病を癒したりするイエスと一緒に過ごすことは、弟子たちにとっては、それまでの日常とはかけ離れたことでした。
イエスと毎日生活を共にするために、弟子たちはそれまでの生活を捨てなければなりませんでした。
ガリラヤ湖で漁をしていた人々は、漁に使う網を置いて、家族もそこに残して、イエスに従いました。
弟子たちがイエスと過ごした3年半は、彼らの人生に中では特別な空間だったと思います。
そう考えると、ガリラヤというのは、多くの弟子たちにとっては日常空間です。
ガリラヤに帰ってきた弟子たちの中には、久しぶりに家族と再会した弟子もいたでしょう。
ガリラヤに帰ってきて、ペトロは、昔のように漁をしたいと思いました。
夜通し漁をしても、何の収穫もありませんでしたが、それも漁師にとっては日常の一部です。
たくさんの魚を得られる日もあれば、1匹も魚が取れない日もある。
それが漁師としての日常です。
そして、イエスは取れた魚を炭火で焼いて、パンと魚を弟子たちに分け与えました。
そのように食事をするというのも、日常の一部です。
弟子たちにとって、エルサレムで過ごした時間は、それまでに経験したことがないことの連続だったと思います。
それに対して、ガリラヤで過ごした時間というのは自分たちが慣れ親しんだ日常です。
イエスに聞いてみないとはっきりしたことは分かりませんが、イエスが弟子たちをわざわざガリラヤに導いたのは、彼らの日常の中で時間を過ごすためだったのかもしれません。
そのように、イエスは私たちの日常の中に共にいてくださるお方です。
日常が教会になる
最近読んだ本の中に、異教まみれのキリスト教という本があります。
その本の最初に出てくるエピソードが、ある家族が日曜日の朝に、礼拝の時間に遅刻しそうになって、喧嘩をしながらも教会に来るが、教会につくと、スーツを着た姿で仲のいい家族のように振る舞って、礼拝を捧げる話。
この話を聞きながら、礼拝を捧げること、教会に集うことが非日常になっているように思えました。
そのように、教会や礼拝が非日常の世界になると、教会や礼拝に集うことが辛くなっていきます。
本当は日常生活の中に、日曜日があり、共に礼拝を捧げる時間があるのだと思います。
今、平日はカフェで働いていますが、最近思うことは、日常生活の中で福音は伝わっていくのではないかということです。
カフェに来た人に、自分から聖書や神様の話をすることはしていません。
私が心がけていることは、愛を持って、来てくださった人に仕えるということです。
美味しいものを準備し、良い接客をして、満足してもらうことです。
自然に関わる中で、もし向こうから聞かれた場合、自分が牧師であるということや教会の話をするようにしています。
教会という非日常的な場所に連れてくることが伝道ではありません。
私たちの日常が教会になっていく、神様の愛でつながり、神様を礼拝する共同体が築かれていくというイメージの中で、カフェを運営しています。
神様は、日曜日の教会という非日常世界の中にいる閉じ込められているのではありません。
私たちの日常、日々の歩みの中に神様は共に生きてくださっているのです。
