イエスを失った後の弟子たち
先週は、イエスが死から復活した後、初めにマリアと出会った場面を分かち合いました。
マリアと会った後、その日の夕方に、イエスは十二弟子たちに会いに行きました。
その時、弟子たちは一つの家に一緒に集まっていました。
そこにはイエスを裏切ったユダと、またトマスはそこにいなかったようですが、それ以外の10人の弟子たちが一緒でした。
イエスが十字架で殺された後、弟子たちはどういう思いで過ごしていたのでしょうか？
19節を見ると「その日、すなわち週の初めの日の夕方、弟子たちはユダヤ人を恐れて、自分たちのいる家の戸に鍵をかけていた。」とあります。
このように、イエスが殺された後、弟子たちはユダヤ人を恐れて、家の中に隠れていました。
鍵をかけていたということは、おそらく、今度は自分たちが捕まえられて、イエスと同じ目に遭わされるかもしれないと思っていたのでしょう。
そうすると、突然、復活したイエスが家にやってきました。
死んで、墓に葬られているはずのイエスが、弟子たちの目の前に現れたのです。
この時「うわぁ、イエス様！生きていたのですね！」「会えて嬉しい〜！」という雰囲気だったでしょうか？
たぶん、そうではなかったと思います。
この時、弟子たちがユダヤ人を恐れていたように、イエスと再会することも恐ろしいことでした。
なぜなら、弟子たちは、イエスの弟子でありながら、イエスを見捨ててしまったからです。
ペトロに関するエピソードが聖書にありますが、ペトロはイエスの仲間だと疑われた時、それを否定して、そこから逃げ出しました。
他の弟子たちにしても、誰もイエスを助けることができませんでした。
おそらく、弟子たちの心には、イエスを助けてあげられなかったことへの後悔や罪責感のようなものがあったのだと思います。
こう考えると、弟子たちにとって、生き返ったイエスと出会うことは、ある意味で、とても恐ろしいことだったのです。
あなたがたに平和があるように
それでは、復活したイエスと弟子たちが初めて出会った時、どのようなやり取りがあったのか見てみましょう。
イエスは弟子たちがいる家の中に来ると、彼らの真ん中に立ってこう言われました。
「あなたがたに平和があるように」
この言葉は、その後また、21節で、もう一度語られています。
イエスは弟子たちに対して、繰り返し「あなたがたに平和があるように」と言われました。
これが、イエスが復活した後、はじめに十二弟子たちにかけた言葉でした。
ユダヤ人を恐れてビクビクしている弟子たちに、イエスが願ったことは「平和」でした。
ただ考えてみたら、この場面というのは、イエスが弟子たちに何かを教えようと思ったら、絶好の場面です。
聖書には「恐れることはない」というイエスの言葉がいくつか書かれています。
そのように「何を恐れているんだ！」「しっかりと信仰を持ちなさい！」と、弟子たちを叱ることもできたかもしれません。
あるいは「なんであの時、逃げて行ったのか？」「なぜ助けてくれなかったのか？」と、弟子たちの過ちを指摘することもできました。
そして「これがあなたたちが犯した罪だ！」「今すぐ悔い改めなさい！」と悔い改めに導くこともできたでしょう。
このように、イエスが弟子たちの罪や失敗を追及して、更生させようと思ったら、ここは絶好のチャンスでした。
しかし、イエスは弟子たちの失敗については何も触れることはありませんでした。
イエスは恐れに震えている弟子たちに対して、繰り返し「あなたがたに平和があるように」と言われました。
この時、イエスが弟子たちのもとに現れたのは、彼らの失敗を問いただすためではありませんでした。
また、彼らが犯した過ちについて、その責任を追求するためでもありませんでした。
トラウマになるような大きな失敗を犯し、恐れに震えていた時、イエスが弟子たちに願ったことは「平和」です。
この平和という言葉は、他の日本語訳では「平安」とも訳されている言葉です。
このように、イエスは恐れで震えていた弟子たちが、再び平安を取り戻すことができるように、彼らのもとに現れてくださったのです。
平和の正体
その後、イエスは真の平和を与えるために、あることをされました。
イエスは「あなたがたに平和があるように」と言われた後、弟子たちにご自分の手とわき腹を見せました。
この時、イエスの体には、十字架で殺された時の生々しい傷痕がくっきりと残されていました。
手には、十字架に磔にされた時に、釘で撃ち抜かれた痕があり、また、わき腹には、イエスが死んだかどうかを確かめるために、ローマ兵がイエスのわき腹を槍で突いた痕がありました。
このように、イエスは弟子たちに、ご自分の傷跡を見せました。
そうすると、弟子たちはイエスの傷跡を見て、喜びました。
傷跡を見て喜ぶというのは、ちょっとおかしなようにも感じます。
弟子たちにとっては、イエスの体に刻まれた傷跡というのは、イエスを見捨ててしまった自分たちの失敗の跡でもあります。
だからこそ、弟子たちがイエスに会うことは、恐ろしいことでした。
目の前にいるイエスは、単に復活したイエスではなく、自分たちが見捨てたイエスでもあったからです。
なので、生々しい傷跡を見せられた時、弟子たちは後悔や罪責感のような気持ちを抱いても不思議ではありませんでした。
でも、弟子たちは自分たちの失敗の痕でもあるイエスの傷跡を見て、喜んだのです。
もしこの時、何も言われずに、ただ傷跡だけを見せられたら、責められているように感じたでしょう。
「お前たちのせいで、こんなことになってしまったよ」と。
でも、弟子たちが喜ぶことができたのは、イエスの「あなたがたに平和があるように」という言葉があったからだと思います。
弟子たちは、イエスが自分たちを責めるために来たのではないことがわかりました。
大きな失敗を犯してしまったのに、イエスは自分たちのことを受け入れてくださっていることをみんなが感じていたのだと思います。
この時、弟子たちが出会ったイエスというのは、単に死からよみがえった、勝利の主イエスではありません。
弟子たちが出会ったのは、自分たちの過ちを理解し、失敗や弱さを受け入れてくださる復活の主イエスでした。
弟子たちは、イエスの愛を感じたからこそ、自分たちの失敗の跡であるイエスの傷跡を見ながらも、復活したイエスを純粋に喜ぶことができたのだと思います。
イエスが弟子たちに言った「平和」の正体が、この赦しの愛です。
赦しというと、罪がなくなるとか、罪が帳消しになると言われることがあるが、もっと深いものです。
イエスの赦しというのは、私たちの弱さや足りなさを理解し、私たちをそのまま受け入れてくださることです。
機械的に、罪を消してくれるというものではなくて、弱い私たちを受け入れてくれて、一緒に生きてくださるのが、イエスの赦しです。
だから、私たちはイエスの前で、自分たちの正しさを主張する必要もなければ、自分の罪の潔白を証明する必要もありません。
イエスは、私という存在をそのまま受け入れてくださっているからです。
私たちはただ、イエスの赦しの愛を受け取ることができるのです。
